Vol,1 これぞアメリカンオフロード
『4x4MAGAZINE』編集長 河村 大
え? ここを本当に降りるの?
誘導のスタッフは遥か下。豆粒のように見える。
斜度は30度近い。真上に立つと坂というより崖だ。
途中でクルマが横を向いたら、下まで何回転するだろう?
『4x4MAGAZINE』としてオフロードの取材は得意としているが、
こんなに長く急な坂、降りたことがない。
新型グランドチェロキーのカリフォルニア試乗会を締めくくるオフロードテスト。
アメリカの広大なコースをガンガンに走れるという期待に胸膨らませて来たが、
期待以上にチャレンジングなコースだった。
スタッフはローレンジの2速エンジンブレーキで
ヒルディセントコントロールを使って降りろという。
ヒルディセントコントロール。
それは、近年ローレンジを持たぬSUVにも装備されるようになった装備で、
急な坂を安全に下るためのシステムのこと。
急坂では、人間がフットブレーキでスピードを
コントロールするのは至難の技。
ブレーキを踏んだ瞬間にズルっと滑り、
角度が急だとそのまま滑り落ちて行く。
そうするとスピードはおろかステアリングで
方向をコントロールすることすらできず、
斜めになり始めたクルマをどうすることもできずに横転、
なんてことになってしまう。
ところが、ヒルディセントコントロールは
四輪別個にブレーキをかけることができる。
一度に四輪を止めるフットブレーキと違って、
滑ったタイヤのブレーキは緩め、グリップしているタイヤだけに
最適なブレーキをかけることができる。
ABS制御の応用なのだが、これを使うとゆっくり、
ステアリングコントロールを活かしたまま安全に降りられるのだ。
というわけで、意を決して降りることに。グランドチェロキーを信じて…。
急坂では何よりも初速を落とすことが大切なのだが、
グランドチェロキーは本当にゆっくり降り始めた。
ご丁寧に坂の途中で起伏まで用意してあって、
クルマが横を向き始めたりする。
その度に下で誘導しているスタッフが両手を大きく動かして
ステアリングの向きを指示してくれるのだが、
いやはや、生きた心地がしない。
でも、そうやってクルマの向きを何度か修正しているうちに、
僕の中に信頼感が生まれて来た。
彼は決してタイヤを滑らしたりしない。
横を向きそうでもちゃんと修正できる。最後は慣れたもので、
降り切ったところでスタッフにグッジョブ!! と言われた。
あとで聞けば、ラインのせいでクルマが斜めになっていて
下から見ていても恐かったという。
乗ってたほうはもっと恐かったけど!!
でも、すごい達成感。感動である。
実はこのヒルダウンに至るまでのコースも凄かった。
取り付きのヒルクライムから恐ろしくハード。
路面は硬いが細かな砂に覆われており、グリップは悪い。
コースは狭く、登りながら曲がりくねるという有様で、
勢いが通用しないのだ。
それを、グランドチェロキーはトラクションコントロールを駆使しつつ
苦もなく走る。
新型になって四輪独立懸架になり、ジープもついに乗用車になったか…
と思う方もいらっしゃると思うが、コイツがこの試乗会で走った所は、
およそ前後リジッドであるというだけで走破できるところではない。
オプションのクォドラリフトエアサスペンションで
車高は5段階に制御可能。
オフロード走行時には最低地上高をなんと269.5mmまで上げることができる。
それで対地クリアランスを増した体にローレンジと
電子トラクションデバイスで武装。
グランドチェロキーのオフロードの走破性は
むしろ歴代最高レベルに昇華していた。ジープの各モデルは、
必ず“ルビコン”という伝説の難関トレイルコースで
テストされながら造られるというが、
それが納得できるホンモノの走り。
そして、限界の走りを実感させてくれた試乗会に、
ジープの本場アメリカのパワーを感じてきた。
河村 大
1977年創刊、四輪駆動車の老舗専門誌
『4x4MAGAZINE』の編集長を務める。
2010年10月、同誌の完全オンライン移行を行い、
四輪駆動車に特化したポータルサイトをオープンした。
http://4x4magazine.co.jp/
-2011年新型グランドチェロキーWK-
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2010年11月22日